科研費基盤研究(A):イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究

チャプレン研究会zoomセミナー:米国におけるムスリム・チャプレン—差違をさぐり信仰を深める—

チャプレン研究会 zoomセミナー
米国におけるムスリム・チャプレン—差違をさぐり信仰を深める—

下記の通り研究会を開催しました。以下に文字起こし記録と開催報告を掲載します。(画像をクリックすると文字起こし記録(PDFファイル)が開きます。)

開催報告

日本語報告

 チャプレンとは、病院や学校、軍隊や刑務所、企業やさまざまな団体にいて、困難に直面した人(どんな宗教をもつ人であろうと無宗教者であろうと)の話を聴き、自身の宗教を強制・伝道することなく、問題の解決あるいは受容や対応を支援する宗教専門職である。キリスト教の神学校で、神学研究や教会での活動だけでなく、困難に直面している人から学び、そのような人のところを訪問していくよう導く運動が起こった。この理念を体現したのが、チャプレンであるが、それが他宗教や無宗教にも広がった。
 チャプレンは、表に現れにくい個人的な困難に関わる専門職であり、社会の歪みが表出する場所であり、そのチャプレンの活動の研究は、ジェンダー研究と重なる課題をもっている。この研究会では、イスラームにおけるチャプレン(ムスリム・チャプレン)の活動の実際について、米国のムスリム・チャプレンのひとりであり、またハートフォード国際宗教平和大学にて養成教育にも携わっているビラール・アンサーリ博士に話を聞いた。
 ビラール博士は、米国におけるチャプレンの理念が、合衆国憲法修正第一条にある、国教制定の禁止と信教の自由の保障という規定に遡ることから話を始めた。信教の自由とは、(日本で多くみられる「宗教を強制されない自由」という理解とは異なり)、さまざまな環境にあっても宗教を実践する自由を保障する、という理念である。
 ムスリム/ムスリマの場合、当初からイスラームに対する偏見が根強く存在しているうえに、ニューヨークでの同時多発テロ事件の影響で、しばしば迫害や嫌がらせを経験していた。この理念が不全であったわけである。刑務所でも顕著で、金曜日の礼拝参加が認められなかったり、女性の入所者が男性によって身体検査されたりというかたちで、ムスリム/ムスリマの人権は軽んじられていた。ムスリム・チャプレンにとっては、同胞ムスリムの困難対応を支援するうえでは、人権擁護(advocacy)という仕事が重要になった(このあたりはキリスト教のチャプレンと少し違うところでもある)。ムスリム・チャプレンの粘り強い努力がじょじょに実を結び、上記のような問題はすこしずつあらためられていった。
 イスラームは日常生活の中のさまざまな決まりごとを保って好ましい生活を送ることを重視するが、ままならないことに直面したとき、どのようにしたらよいか。その助言をするのが、クルアーン(コーラン)やイスラーム法について膨大な知識を身にそなえたウラマー(イスラーム法学者)である。イスラーム法で好ましいとされるようにならない、あるいはできないばあい、どうしたらよいか。社会のさまざまな課題に対してウラマーの発信する法解釈(ファトワ)が重要な所以である。ところが、現代社会においては、伝統的な解釈には当てはまらない新しい問題や、移民として暮らすムスリム/ムスリマが経験する個別の問題など、対応しきれないことが多くなってきた。このウラマーがカバーできない私的な領域の諸課題を支えるのがチャプレンといえる。また、いうまでもなく、イスラームはその当初から弱者保護・相互扶助の理念をもっているが、その現代的現場的な再解釈もチャプレンに求められるようになっているようだ。
 講演では、チャプレンのこのような私的領域での活動の具体例をいくつか挙げつつ、現代的私的課題で伝統的な解釈に満足しないムスリム/ムスリマたちの集う「サードスペース」、また、米国でのムスリム・チャプレン養成機関としてのハートフォード国際宗教平和大学(もとハートフォード神学校)の位置づけ、コロナ禍におけるムスリムの精神的苦境の経験などについての話題もあった。

 日本時間との時差ゆえに、ビラール博士は早朝から講演をすることになる。細谷先生と葛西は、「ムスリムのビラール先生は早朝も礼拝するから早起きも大丈夫に違いない」とこの時間の講演を依頼したところ、快く受けて下さり、「せっかくだから”sunrise”セミナーという別名をつけちゃおう」という提案までされた。ほがらかで親しみやすい雰囲気で語り通された講演は、イスラームについてまったく知らなかった日本のチャプレン聴衆にも、強い印象を与えたようだ。
 司会の葛西は、過去にハートフォード神学校でつたない講義をしたことがあり、その折に、ムスリム・チャプレン養成プログラムの存在を聞いて驚いた記憶がある。白い美しいこじんまりした校舎に、精力的な教員と熱意のある学生がいて、すてきな学びの環境であると感じた。当時、ビラール博士にはまったく接点がなかった。今回のご縁を広げていければよいなと思っている。

 本研究会はZoom Meetingを用いたオンライン会議の形をとったが、この種の学術的な会議の中で、Zoomの通訳機能を用いるという試みもした。一つのミーティングに二つの音声回線を用意することで、英語で直接聴くこともできるし、通訳を介して日本語で聴くこともできるしくみである。通訳には司会から原稿や専門用語などの情報提供をしたが、配付資料もスライドもない口頭の講演であり、宗教用語などの通訳には苦労があったと想像される。今後は、原稿ではなくても簡単なメモ程度の共有をしてもらうことで、通訳作業の支援と質の向上を図りたい。なお、この通訳機能のしくみから、録音がビラール博士の英語音声と司会者の日本語音声のみの録音になっていたため、書き起こしも、博士は英語、司会者や質問(の大半)は日本語、という形になっている。なお、書き起こしには、葛西の説明できる範囲で、宗教用語やチャプレン用語に訳注をつけたところ、ありがたいことに後藤絵美先生も宗教用語の訳注とアラビア語とを補足してくださったので、イスラームについての知識がほとんどない方にもわかりやすいものになったことが嬉しい。
 開催のみならず、事前準備や動員、zoom操作のバックアップや試運転参加、アラビア語の用語確認等、IG科研の皆様のお力添えをいただいた。このような「学際的」な試みを実現させていただいたことを、改めて御礼申し上げる。

英語報告

 Dr. Bilal Ansari, Doctor of Ministry, is a Faculty Associate of Pastoral Theology, Director of the Islamic Chaplaincy Program, and Co-Director of the Master of Arts in Chaplaincy at the Hartford International University for Religion and Peace, CT, U.S.A. He is also Assistant Vice President for Campus Engagement at Williams College. He has won several awards for community activism and organizing for building affordable housing, disaster rehabilitation, anti-Black racism, and police reform. He has worked in state and federal men’s and women’s prisons for over 16 years and has actively fought for racial justice, gender and religious inclusion, and equity. He has worked for the past 10 years in academic institutions as an administrator, faculty member, and mentor to hundreds of young student leaders in undergraduate and graduate programs. He is a founding member of the Association of Muslim Chaplains and the Muslim Endorsing Council.

 A chaplain is an expert in various faiths (pastor, priest, rabbi, imam, or non-religious listener) who listens to persons of various faiths experiencing a crisis. In the U. S., Muslim people need additional research for advocacy in freedom of faith, especially in prison. In this seminar, he introduces the history of the U.S. Muslim chaplains working for the advocacy and security of Muslim/Muslimas at colleges, prisons, hospitals. He demonstrates that the Muslim Chaplain is a humanitarian alternative life advisor to the traditional Islamic scholar (Ulama) in recent changing society and for problems between people’s public and private lives. New movements such as “the third space” also constitute an approach for the renewed interpretation of Islamic law and manners.

 Our audiences were impressed by the friendly nature of Dr. Bilal and enjoyed his talk. The name “sunrise” seminar came from his playful inspiration. He had to get up extremely early in the morning both because he is a dedicated Muslim and because of the time difference. We are elated to have him online and share his experience with both Islamic study experts and Japanese chaplains.
*報告文執筆:葛西 賢太(上智大学グリーフケア研究所准教授)

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*講師*
ビラール・アンサーリ博士
Dr. Bilal Ansari(ハートフォード国際宗教平和大学、イスラーム・チャプレン・プログラム主任)

日時:2021年11月25日(木)20:00〜22:00(終了しました)
会場:オンライン開催
言語:英語(日本語の同時通訳が入ります)

 「チャプレン」とはキリスト教の牧師を指す語でしたが、近年は宗教の種類を問わず、病院、刑務所、軍、学校等で、脆弱な立場にある人々の宗教的なケアやアドバイスをおこない、権利擁護のために活動する者を指して使われています。
 本セミナーでは、米国ハートフォード国際宗教平和大学(旧・ハートフォード神学校)からビラール・アンサーリ博士をお招きし、アメリカにおけるムスリム・チャプレンの活動について、実践者・教育者の立場からお話いただきます。

ビラール・アンサーリ博士
 ハートフォード国際宗教平和大学イスラーム・チャプレン・プログラム主任。牧会神学学科研究員、ムスリムチャプレン協会およびムスリム支援協議会の創立メンバーの一人。
 ハートフォード国際宗教平和大学では、イスラーム・チャプレン・プログラムの主任、チャプレン養成修士課程の副主任として、教育研究機関の運営事務に関わりながら、大学学部生および大学院生の数百人の学生リーダーたちの教育にも携わってきた。
 ムスリムチャプレンの養成に尽力したのみならず、16年に渡り、刑務所において男女受刑者の支援を行い、人種差別是正、ジェンダー、宗教の包摂と平等のために努力を重ねた。地域コミュニティでの活動、ホームレスへの住宅供与支援、災害復興、黒人に対する人種差別、警察改革において、複数の賞を受けている。

登壇者:細谷幸子(国際医療福祉大学成田看護学部教授)、葛西賢太(上智大学グリーフケア研究所准教授) 

主催:チャプレン研究会 科学研究費補助金基盤C「終末期患者に対するイスラーム的ケアの研究:イランにおける死の医療化をめぐって」(代表:細谷幸子、20K12326)
共催:科研費基盤研究(A)イスラーム・ジェンダー学の構築のための基礎的総合的研究(代表:長沢栄治、20H00085)

関連セミナー:Online Book Talk/巣ごもり読書会『Understanding Muslim Chaplaincy』

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