科研費基盤研究(A):イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究

Online Book Talk/巣ごもり読書会『Understanding Muslim Chaplaincy』

Online Book Talk/巣ごもり読書会『Understanding Muslim Chaplaincy』

Online Book Talk/巣ごもり読書会『Understanding Muslim Chaplaincy』を開催しました。以下に文字起こし記録と開催報告を掲載します。
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◆資料のダウンロードはこちらより(以下クリックするとPDFファイルが開きます。)
・公開資料1
・公開資料2

開催報告

日本語報告

 「巣ごもり読書会『Understanding Muslim Chaplaincy』」では、2014年に刊行されたソフィー・ギリアット=レイ(Sophie Gilliat-Ray)氏の書籍Understanding Muslim Chaplaincyについて、イランにおける医療が専門の細谷幸子氏、イスラームにおける宗教と医療を専門とする葛西賢太氏が報告を行った。
 細谷氏の報告では、ムスリム・チャプレンの基本的な活動内容と、ムスリム・チャプレンは登場してきたイギリスの歴史的背景に関する説明を中心に、本書の概要を説明した。その後細谷氏は、ムスリム・チャプレンの日本における発展の可能性と現状に対する問題提起を行い、報告をまとめた。その後の葛西氏の報告では、イスラーム法学者であるウラマーやイマームといった既存の制度と、ムスリム・チャプレンの違いや、アメリカのサード・スペースの動きと比較しながらムスリム・チャプレンの持つ特徴やそれを要請する社会的背景について深く考察がなされた。
 両者の報告の後で、フロアの方から、報告に対するコメントや論点が多く寄せられた。まず、アメリカのムスリム・コミュニティを研究する方から、サード・スペースの成り立ちと社会背景に対する説明があり、既存の宗教権威とサード・スペースの間の緊張関係が指摘され、それと比較して今後のムスリム・チャプレンのあり方に対する質問が投げられた。また、日本ムスリム協会の方から、日本の刑務所におけるムスリムに対する教誨師の活動に関する現状や医療機関におけるそのニーズに対する補足説明があったほか、ムスリム・チャプレンの活動の質を担保する資格制度に対する質問なども挙げられた。さらに日本に住むムスリマの方々から、日本のムスリム・コミュニティと、それをサポートする自助グループの存在とその運営に関する説明や、ムスリマの悩みといったジェンダーに関する日常の問題に対する日本のムスリム・コミュニティの現状に対するコメントが寄せられた。

英語報告

 Sophie Gilliat-Ray's 2014 book, Understanding Muslim Chaplaincy, provided the intriguing discussion topic for the latest virtual meeting of the Sugomori Online Book Club. Sachiko Hosoya, a public health specialist researching the public health system in Iran, and Kenta Kasai, a researcher specializing in the relationship between Islam and healthcare, were invited to deliver presentations on the book, which formed the basis of the in-depth post-presentation discussion.
 Ms. Hosoya’s report provided an overview of the book, focusing on the history of Muslim chaplaincy and its origin and development in the United Kingdom. She also examined the activities of Muslim chaplains in the UK throughout history. Mr. Kasai’s report discussed the differences between Muslim chaplains and legal scholars, such as Ulama or Imams, in the existing Islamic legal system. In addition, he spoke about the characteristics of Muslim chaplains and the need they fulfill in Islamic society in the UK, comparing them to the Third Space movement in the United States.
 After the reports, the floor was opened to comments and questions from the virtual audience. First, Kei Takahashi, who studies Muslim communities in the US, explained the origins and social background of the Third Space, pointed out the existing tensions between religious authorities and the Third Space, and asked questions about the future of Muslim chaplains and whether there was a possibility of a similar tense relationship developing between the chaplains and traditional Islamic religious authorities in the UK. Mr. Mizutani of the Japan Muslim Association provided a supplementary overview of the current situation of Muslim chaplains in Japan, outlining some of their activities in Japanese prisons and explaining the needs they can fulfill within medical institutions in Japan. In addition, Ms. Tomioka and Ms. Qureshi offered their perspectives as Muslims living in Japan, explaining the situation of the Muslim community in Japan and describing how the activities of peer support groups assist this community. They further commented on how the Muslim community in Japan is dealing with everyday gender issues.
*報告文作成:保井 啓志(東京大学大学院総合文化研究科)

 Chaplaincyチャプレンシーとは、キリスト教の牧師を指すchaplainから来た語ですが、近年は宗教の種類を問わず、病院、刑務所、軍、学校等において、宗教的なケアやアドバイスをおこなう実践を指す言葉として使われています。今回紹介する書籍では、イギリスにおけるムスリムを対象とした宗教的ケア・アドバイスに関して、実践者の活動の場や人材育成、それぞれの取り組みから見えてくる政治的な状況が記述され、考察されています。
 日本において、ムスリムに対する宗教的ケアや宗教的配慮が議論される場合、食事や薬品のハラール対応や礼拝場の設置、男女間接触回避の対応、女性のベールの着用などが注目されがちです。しかし、ムスリム・チャプレンシーの活動を知ると、それがより広範囲な社会生活に関連した相談・支援活動、そしてムスリムがマイノリティとして生活する社会における権利擁護とも結びつく状況が見えてきます。今回の巣ごもり読書会では、日本やその他の国での取り組み等についても情報交換ができたらと考えています。
日時

2022年1月9日(日)17:00~18:00(終了しました)

【プログラム】
17:00~17:20 趣旨説明・「チャプレン」について(細谷 幸子)
17:20~17:40 チャプレン制度の歴史と概要について(葛西 賢太)
17:40~18:00 参加者との意見交換

会場

Zoomを用いたオンライン開催

今回の課題図書

Sophie Gilliat-Ray, Mansur Ali and Stephen Pattison, Understanding Muslim Chaplaincy (AHRC/ESRC Religion and Society Series), 2016, Routledge. (First published by Ashgate Publishing in 2013)

語り手

細谷 幸子(国際医療福祉大学)、葛西 賢太(上智大学)

司会

葛西 賢太(上智大学)

登壇者紹介

◆葛西 賢太 Kenta KASAI
 上智大学グリーフケア研究所特任准教授。東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化専攻博士課程修了。博士(文学)。研究対象は、宗教と心理学との対話史、仏教心理学、死生学、依存症回復と宗教、傾聴者養成。主な編著書に『断酒が作り出す共同性--アルコール依存からの回復を信じる人々』(世界思想社、2007)、訳書に『アルコホーリクス・アノニマスの歴史』(アーネスト・カーツ著、明石書店、2020)がある。

◆細谷 幸子 Sachiko HOSOYA
 国際医療福祉大学成田看護学部教授。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了。博士(学術)。イランの医療・福祉に関する調査研究をおこなっている。主な業績に「イランのスピリチュアルケアの現状」(『グリーフケア』 8:195-208、2020)、『イスラームと慈善活動〜イランにおける入浴介助ボランティアの語りから』(ナカニシヤ出版、2011)がある。

主催

科研費基盤研究(A) イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究(代表:長沢 栄治)

問い合わせ先

イスラーム・ジェンダー学科研事務局( office◆islam-gender.jp )※◆は@に変更してください。