科研費基盤研究(A):イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究

映画『Voices from the homeland』上映会

映画『Voices from the homeland』上映会

映画『Voices from the homeland』上映会を開催しました。以下に文字起こし記録と開催報告を掲載します。
右の画像をクリックすると文字起こし記録が開きます。

開催報告

日本語報告

 本会は、中島夏樹監督によるドキュメンタリー映画『Voices from the homeland』(2021年)の上映および作品トークによって構成される。トークには監督だけでなく、通訳の磯部加代子氏も加わった。主に、本作の主役であるデングベジュと撮影の裏側について語られた。
 上映に先立ち、クルドの人々が歩んできた歴史とその故郷クルディスタンについて、中島由佳利氏より解説がなされた。日頃、われわれは中東紛争や難民問題などのニュースを通して、「クルド」という言葉を耳にすることがあるものの、彼らの文化についてあまり多くのことを知らない。本作は、クルドの語り部であり歌い手であるデングベジュを取り上げることで、ニュースでは伝えられないクルディスタンの風景とその地で受け継がれてきた文化を、われわれに伝える役目を果たしている。
 トルコ共和国建国から近年に至るまで、母語の使用を禁止されていたクルドの人々。憲兵の目を免れながらも、ひっそりとクルド語文化を伝えてきたのがデングベジュである。本作では、政治的主張はあえて省かれているが、インタビュー映像からは、彼らが置かれてきた不遇や緊張感が微かに伝わってくる。
 本作は、クルドについて理解を深める作品であることはもちろん、言語の違いを越えた音楽の可能性を感じさせるものでもある。デングベジュは、「声」をまるで楽器のようにして美しい音色を奏でる。その音色から伝わる情感をそのままに感じてほしい、という音楽家らしい監督のメッセージは、作中の歌詞にあえて日本語字幕を付さないことで効果的に伝えられる。上映後に、一部の歌詞の日本語訳が共有されたが、詩的な表現に富んだクルド語の意味を理解するのは容易なことではない。文字の世界では、言語の壁がどうしても立ちはだかってしまう。しかし音楽ならば、われわれは心を通わせることができるのではないか。
 本会を通じて、音楽のもつ力を改めて感じるとともに、遠くの誰かについて知るために、まずは「耳を傾ける」ことの大切さを教わった。

英語報告

  This event involved the screening of the documentary “Voices from the homeland” (2021), directed by Natsuki NAKAJIMA, and a film talk with him, aided by an interpreter, Kayoko ISOBE. The talk was mainly about Dengbeju, the main character of the film , and stories behind the making of it.
  Prior to the screening, commentator Yukari NAKAJIMA gave a lecture on the history of the Kurdish people and their homeland, Kurdistan. Although we often hear of “Kurds” through news about the Middle East conflict and refugee issues , we do not know much about their culture. The film features Dengbêjs—Kurdish singing storytellers—who inform the viewer about Kurdistan’s landscape and culture, which the news does not cover.
  After the foundation of the Republic of Turkey, until recently, Kurds were banned from using their language. The Dengbêjs secretly kept the Kurdish language culture alive while avoiding the military police’s attention. Though political arguments are left out in the film, the interview videos give the viewer a sense of the misfortune the Kurds suffered.
  This work not only promotes our understanding of Kurds but also reminds us of the potential of music. Dengbeju play own voice as if an instrument to sound beautiful melodies. The absence of Japanese subtitles for song lyrics in the film helps convey the director’s message—to feel the emotions through the music—effectively.
  Through this event, I learned anew the power of music and the importance of first "bend an ear" in order to know about others far away .
*報告文作成:志田 夏美(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

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映画『Voices from the homeland 地図になき、故郷からの声』クルドの吟遊詩人、デングベジュたちの物語をめぐるドキュメンタリー
(監督:中島 夏樹, 2021年, クルド語・トルコ語・日本語, 60分)
デングベジュは、伝統的なクルドの語り部であり、歌い手である。クルド人の母語であるクルド語は、トルコにおいて長いこと禁止されてきた。
それでも、デングベジュたちはいにしえの言葉、クルド語で歌い続け、人びとの記憶と心の叫びを声にのせ、物語として語り継いできた。
土に埋められた秘密のカセットテープを、40年探し続けるひとりのデングベジュ。
子どもたちをトルコ人と同じように育てることで彼らを守ろうとした、村で最後のデングベジュ。
物語を語り継ぐデングベジュたちの「物語」にのせて届けられた彼らの声は、いま、クルド人の新たな物語が紡がれている日本で解き放たれた。

日時:2021年8月29日(日)13:00~(終了しました)
会場:Zoom(ウェビナー)を用いたオンライン開催

【スケジュール】
◆司会:岡 真理(京都大学)、小野 仁美(東京大学)
13:00-13:20 解説:中島 由佳利氏
13:20-14:20 映画上映
  休憩(10分)
14:30-15:30 トーク:中島 夏樹氏、磯部 加代子氏
15:30-16:00 質疑応答

【登壇者紹介】
◆中島 夏樹 Natsuki NAKAJIMA
 作曲家、映像作家。東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。東京藝術大学美術研究科先端芸術表現科修了。2018年、株式会社MAGNETICA studio設立。
◆磯部 加代子 Kayoko ISOBE
 クルド文学翻訳家、トルコ語通訳。訳書に、ムラトハン ムンガン編『あるデルスィムの物語―クルド文学短編集』さわらび舎, 2017年 他。
◆中島 由佳利 Yukari NAKAJIMA
 ノンフィクションライター。クルド人問題研究家。クルドを知る会メンバー。著書に『新月の夜が明けるとき―北クルディスタンの人びと』新泉社, 2003年 他。

【主催】
 ・科研費基盤研究(A)「イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究」(研究代表者:長沢栄治(東京外国語大学))
 ・科研費基盤研究(A)「トランスナショナル時代の人間と「祖国」の関係性をめぐる人文学的、領域横断的研究」(研究代表者:岡真理(京都大学))
【問い合わせ先】
 イスラーム・ジェンダー学科研事務局( office@islam-gender.jp )