科研費基盤研究(A):イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究

オンライン研究会「パレスチナのちいさないとなみ―写真と文学・映画から」

オンライン研究会「パレスチナのちいさないとなみ―写真と文学・映画から」

オンライン研究会「パレスチナのちいさないとなみ」を開催しました。以下に開催報告(日本語・英語)を掲載します。

開催報告

日本語報告

 本研究会は、パレスチナのちいさきひとびとの生を丁寧に描くことで、パレスチナが置かれている状況を生き生きと描き出した。  岡氏の報告は、まず2021年5月のガザ戦争でのメディア報道を取り上げ、パレスチナが人々の関心に上がるのが瞬間的であるという問題を提起した。そして2008年以来のガザ完全封鎖がガザ地区のパレスチナ人を人間らしい生活を営むことを阻んでいると指摘し、問題の長期的・漸進的な暴力にこそ注目すべきとした。その上で、パレスチナ人が自らを固有の生として、数ではない一人の存在として、文学、アート、映画という媒体を通じて描く様子を紹介した。こうした作品を通じ、他者による共感の可能性を提示した。  こうした岡氏の報告を受け、高橋氏の報告はパレスチナ西岸地区ジェニンの村での生活から、パレスチナのひとびとのちいさないとなみを示した。自身のパレスチナ人家族との日々の生活やその困窮と、それに抗う様子、占領と殉教、そうした日常の積み重ねを数多くの写真を交えて紹介した。一連の報告を通じ、パレスチナ人の名前のある人々とその生活を描き出した。
 質疑応答ではパレスチナ社会への参入について、生活上の危険、アフリカ(ルワンダやコンゴなど)との世界的なつながりなど、非常に活発な議論が展開された。
 本研究会を通じ、パレスチナの人々の日常を見つめることで、日本のような他の社会の人々が共感、追体験することの可能性が示された。アメリカでのガザ戦争の犠牲者への関心の高さのように、こうした共感は世界的にも広がっている。他方、イスラエルへの共感、例えば1972年ミュンヘンオリンピックにおけるイスラエル人アスリートの犠牲、も同様に見受けられる。こうした状況下で、一方の側の一面的な犠牲者性だけに注目しない、より深い理解や追体験が必要であろう。本研究会はこうした多面的・多層的な追体験の可能性を示唆する、重要な場となったといえる。

英語報告

  This research group carefully illustrated the livelihood of ordinary Palestinians and clearly showed the situation in the country.
  Ms. Oka first addressed the media coverage of the Gaza violence that broke out in May 2021 and raised the problem that Palestine rises to people's attention momentarily. She pointed out that the full blockade of Gaza since 2008 has prevented Palestinians in the Gaza Strip from living a humane life, and that the long-term and incremental violence should be focused on. She then introduced how Palestinians describe themselves as a life force and not a number. Through these works, she suggested the possibility of empathy by others.
  Following Ms. Oka’s presentation, Ms. Takahashi showed the daily life of Palestinians from based on her experience in Jenin, West Bank. Through many photographs, she described life with a Palestinian family, their poverty and struggle against it, and occupation and martyrdom over the past many decades. She shared her illustrations of the people with their names.   During the Q&A session, there was an active discussion on entering Palestine, the dangers of living there, and the global relationship with Africa.
  This research group revealed the possibility that people in other societies can empathize with Palestinians by focusing on livelihood—Americans’ interest in Gaza war victims shows that this empathy is widespread globally. However, there is empathy for Israel as well—for example, for the victims of Israeli athletes victimized at the 1972 Munich Olympics. It is, therefore, necessary to understand and relive the overall situation more deeply, rather than just focusing on one-sided victimhood. Thus, this research group suggested the possibility of such multiple reliving of multilayered experiences.
*報告文作成:澤口右樹(東京大学大学院総合文化研究科)

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 占領下のガザに対するイスラエルの大規模軍事攻撃は、5月21日に停戦となりました。ガザへの空爆が停止しても、根本的な問題は何一つ解決されていません。1948年に占領されたイスラエル領、1967年に占領された東エルサレム、西岸、ガザ地区では、ユダヤ人至上主義のアパルトヘイトと現在進行形の民族浄化のもとで、パレスチナ人は対等な人間性と自由を否定されています。しかし、占領による日常的な構造的暴力は、主流メディアではほとんど報道されません。
 また、報道されるガザの攻撃であっても、犠牲になった人々は「数」でしか表されません。でもその一人一人に人生があり、大事な人がいて、大切な営みがそこにありました。顔の見える一人一人として、パレスチナの人たちのことを考えるためのきっかけになればと、研究会を企画しました。パレスチナに暮らす人々の日々の暮らしとその息吹を、写真と文学・映画の力を借りて届けます。
 どなたでもご参加いただけます。ぜひふるってご参加ください。

日時:2021年7月22日(祝・木)19:00~21:00(終了しました)
会場:Zoomを用いたオンライン開催

◇司会:
 嶺崎 寛子(成蹊大学)
◇語り手:
 岡 真理(京都大学)
 「パレスチナの人々―文学と映画から」
 高橋 美香(写真家)
 「パレスチナのちいさないとなみ―写真から」

【登壇者紹介】
◆岡 真理(京都大学)
 現代アラブ文学、パレスチナ問題、第三世界フェミニズムを専門とする。著書に『ガザに地下鉄が走る日』(2018、みすず書房)『アラブ、祈りとしての文学』(2015年、みすず書房)『記憶・物語』(2000年、岩波書店)など。
◆高橋 美香(写真家)
 パレスチナに通い、パレスチナの人々と生活を共にし、人々の暮らしを写真とエッセイで伝える。著書に『パレスチナのちいさないとなみ』(皆川万葉と共著、2019、かもがわ出版)、『それでもパレスチナに木を植える』(2016、未来社)、『パレスチナ・そこにある日常』(2010、未来社)など。

【共催】
 ・科研費基盤研究(A)「イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究」グループ研究「ポスト紛争後の修復的正義とジェンダー」
 ・科研費学術変革領域研究(A)「イスラーム的コネクティビティにみる信頼構築」A03「移民・難民とコミュニティ形成」班  https://connectivity.aa-ken.jp/
 ・科研費基盤研究(A)「トランスナショナル時代の人間と「祖国」の関係性をめぐる人文学的、領域横断的研究」
【問い合わせ先】
 イスラーム・ジェンダー学科研事務局( office@islam-gender.jp )