科研費基盤研究(A):イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究

Online Book Talk/巣ごもり読書会『ジェンダー暴力の文化人類学』

Online Book Talk/巣ごもり読書会『ジェンダー暴力の文化人類学』

Online Book Talk/巣ごもり読書会『ジェンダー暴力の文化人類学』を開催しました。以下に開催報告(日本語・英語)を掲載します。

開催報告

日本語報告

 本読書会では、2021年2月に刊行された『ジェンダー暴力の文化人類学』田中雅一・嶺崎寛子編について議論が交わされた。田中雅一氏の「フィールドワークにおけるジェンダー暴力をどう捉えるか」という問いかけの後、高橋圭氏と松尾瑞穂氏がそれぞれ中東に関する章と南アジアに関する章についてコメントを述べた。高橋氏は実践を通じた規範の新解釈が行われている点を中東関連章の共通点として述べ、松尾氏は南アジア関連章では、暴力が無意識・日常に埋め込まれているが故にその暴力度が弱く見えると指摘した。質疑応答では赤堀雅幸氏の「性暴力とジェンダー暴力は峻別するべきなのではないか」という質問を皮切りに「暴力」という用語の効力・問題点が焦点化された。
 さて本読書会では、人類学における新古の諸テーマが顕在化したように思われる。この報告では二点取り上げたい。まず規範と実践の関係性である。高橋氏は実践を通した規範の変革の可能性を考えた一方で、松尾氏は潜在化する無意識の規範(暴力)が実践に顕現する有様を考えていたようである。実践の対象としての規範を強調するか、あるいは規範の体現としての実践を強調するかという点で、この二者の論点は実践と規範の対立・内包・序列などの描き方を考えさせてくれるものではないか。
 次に「暴力」の焦点化は、フェミニズムと人類学の緊張関係を彷彿とさせる議論であった。マリリン・ストラザーン(1987)は「他者(異文化)と通じようとする人類学」と「他者(家父長制)を告発しようとするフェミニズム」の間にはぎこちない関係 (awkward relationship) があることを指摘し、その両立の難しさを説いた。機能主義的にジェンダー暴力を捉える傾向の強い人類学の本書が、フェミニズムのように「暴力を告発」することは確かに難しいのかもしれない。このことは「暴力」の範囲・変容性をいくら議論したところで容易に解決できる問題ではない分、大きな問いを孕んでいるようにも報告者には感じられた。

英語報告

  This book talk, featuring Cultural Anthropologies of Gender Violence (2021, eds. Masakazu Tanaka and Hiroko Minesaki), started with Tanaka’s anthropologically minded question, “How should one understand gender violence in sites of fieldwork?” Takahashi then commented on how transformation of existing norms through people’s practices was commonly observed in the Middle East; in contrast, Matsuo pointed out that the internalization of violence at a subconscious level was why its apparent intensity was perceived as relatively low in South Asia. In the Q&A session, the terminology related to “violence” as put under the microscope following Akahori’s suggestion that sexual violence and gender violence be distinguished from each other.
  The book talk raised several new and old topics in anthropology, two of which I would like to address here. First, the issue in the relationship between norms and practices seemed to persist. While Takahashi stressed the possibilities of transformation of norms through everyday practices, Matsuo focused on how subconscious norms (violence) manifest in people’s practices. Should we stress the transformability of norms through practices, or the embodiment of norms into practices? These points throw into relief the nuance generally required in sketching the relationship between the two.
  Second, the discussions on “violence” highlighted the tension between feminism and anthropology. As Marilyn Strathern (1987) has pointed out, there exists an awkward relationship between anthropology, which seeks to “create a relation with” the Other (cultures), and feminism, which seeks to “expose and thereby destroy the authority of” the Other (patriarchy). Accordingly, this book, which tends to “understand” gender violence in a functionalist/anthropological style, may indeed find itself in a difficult position to “denounce” violence in the way feminism does. In fact, it may not even be possible to diffuse this tension. The discussions during the book talk, however, seemed to indicate the ample potentiality for it.
*報告文作成:佐野太紀(東京大学大学院総合文化研究科)

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 カバー見返しより
「ジェンダーは希望である。なぜならジェンダーは男らしさや女らしさが変革可能な属性であることを力強く指し示しているからだ。そのジェンダーが暴力と結びつくというのは、どういうことなのか。17人の論者が<ジェンダー暴力>の地域的な多様性と繰り返し現れる類似性、さらに暴力の回避や抵抗を探求する」

今年の2月に出版され、5月に重版がかかるなど、学術書としては異例の売れ行きを見せている本書。ジェンダー暴力について中東と南アジアを中心に語り合います。ご参加お待ちしております。

日時:2021年7月29日(木)13:30~15:00(終了しました)
会場:Zoomを用いたオンライン開催

【今回の課題図書】田中雅一・嶺崎寛子編『ジェンダー暴力の文化人類学』(2021年、昭和堂)(タイトルをクリックすると出版社ページに移動します)

◇司会:嶺崎寛子(成蹊大学)
◇語り手:田中雅一(国際ファッション専門職大学)、松尾瑞穂(国立民族学博物館)、高橋圭(東洋大学)

【登壇者紹介】
田中雅一:国際ファッション専門職大学教授/京都大学名誉教授。主要業績に『軍隊の文化人類学』(編著、2015、風響社)『誘惑する文化人類学』(2018、世界思想社)、『コンタクトゾーンの人類学』(共編著、2011-13、晃洋書房)など多数。
松尾瑞穂:国立民族学博物館先端人類科学研究部准教授。女性のライフコースの中で大きな意味を持つリプロダクション(性と生殖)を主要な研究領域として、それらをとりまく社会的営みや文化的実践、歴史的変容を研究。主要業績に『ジェンダーとリプロダクションの人類学―インド農村社会の不妊を生きる女性たち』(2013、昭和堂)、『インドにおける代理出産の文化論―出産の商品化のゆくえ』(2013、風響社)。
高橋圭: 東洋大学文学部助教。エジプトと北米を対象地域として現代のスーフィズム(イスラーム神秘主義)について研究。主要業績に「伝統と現実の狭間で―現代アメリカのスンナ派新伝統主義とジェンダー言説」(『ジェンダー研究』21号、2019年)、『スーフィー教団―民衆イスラームの伝統と再生』(2014、山川出版社)など

【主催】
科研費基盤研究(A) イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究(代表:長沢 栄治)
【共催】
NIHU「南アジア地域研究」龍谷大学拠点・龍谷大学南アジア研究センター RINDAS
NIHU「現代中東地域研究」上智大学拠点・上智大学イスラーム研究センター SIAS
【問い合わせ先】
イスラーム・ジェンダー学科研事務局( office@islam-gender.jp )