研究会「日本の家族法における子どもの権利」
- 日時: 2018年10月20日(土) 14:30~17:00
- 場所:横浜市立大学 YCUスクエア Y201
- プログラム
司会:山﨑和美(横浜市立大学) |
|
休憩 (10分) |
|
コメント:森田豊子(鹿児島大学)(10分) |
討論(30分) |
研究会の後、懇親会を予定しております(18:00~)
<概要>
IG科研公募研究会「イスラーム家族・女性関連法の運用実態の研究」では、これまでイランにおける家族法、子どもの権利や相続法についての研究会を開催してきた。これらの研究を踏まえ、今回の研究会の目的は、日本における家族法のあり方に焦点をあてることである。イランおよびイスラーム諸国の家族法との比較の観点から、また、近年のグローバル化に伴う国際結婚の増加に起因する現実的な法律問題解決の観点からも、日本における家族法の実態や運用について把握し、イランの家族法やイスラーム法との比較検討を行うことには意義があると考える。
*本研究会に参加希望の方は前日までで結構ですので、 zanan.kaken@gmail.com(@を半角にしてご使用ください) までご一報いただけるとたいへんありがたいです。
共催:科研基盤C「近代イランにおける女性教育の推進:イスラームと西洋近代の相克」(代表: 山﨑和美)
開催報告
本研究会は、これまでイスラーム諸国の家族法における子どもの保護について、相続についてなど、家族をめぐる法律を中心とした問題について議論してきた。今回のテーマは日本の法律の中でのムスリムに関係する事件について、弁護士の浦野修平氏からの報告、さらに現在の日本の民法における子どもの問題について日本の民法研究者である橋本有生氏による報告とそれに続いて討論が行われた。
山﨑和美氏による本公募研究会の趣旨についての説明のあと、二つの報告がなされた。第一に、弁護士の浦野氏の報告では、外国人の退去強制手続きの大まかな流れの説明のあと、これまで日本の裁判所で争われた、イラン人に関係する5つの事件についての概要と、その裁判の中で、イランの法的現状がどのように語られ、どのように判決に影響したのかについて説明された。特に民事訴訟においては、イランやイスラーム法についてあまり詳しくない調査者による報告から裁判官が「普通の」感覚でイランの法的現状などについて判断されることがわかった。
次に、橋本氏による報告では、日本の民法における子の親権の内容、親権を持つ親が子に対して、および子の代理でできることとその限界、子の利益とはどんなものであるのか、最後に、ハーグ条約に基づく子の引き渡しの問題について、複雑な民法規定を法律の専門家以外にもわかりやすくまとめてご報告いただいた。特にここでは、子の引き渡しについては日本国内事案と渉外事案(外国人が当事者になる場合)で「子の自由な意思」の判断基準にばらつきがあることに問題があるのではないのかという指摘があった。今後、日本ではムスリムも含めた多くの外国人を受け入れることが予想されることから、このような問題についてより深い議論が必要であると指摘された。
続く森田によるコメントは、現在の日本において中東イスラーム諸国の国民が日本で裁判を受ける場合、未だ各国法の専門家がほぼいない状態で、裁判の中で語られる「イスラーム法」がどのようなものか、今後、詳細に検討する必要があるのではないかということ、裁判官が「客観的に見て」などと判断する場合のイスラーム法がどのようなものか、などについても、より詳細な研究が必要であろうと指摘された。続いての議論では、もともとイスラーム法が多様であることから、日本の裁判所が「これがイスラーム法である」と固定的にとらえることは危険であること、実際に法律家が裁判で求めている現実のあり方と、研究者が現地を研究していてとらえる現実のあり方が異なっていることからくる難しさ、また、一夫多妻など、日本と一部のイスラーム諸国で認められている法規定が異なる場合の解決方法などについて議論されるなど、活発な議論が行われた。 本研究会では12名の参加者があった。いつまでも議論が終わることなく、今後もまた、日本の法律家や法研究者などと協力しながら研究を進める必要性がより強く感じられた。