公募研究班「開発とトランスナショナルな社会運動」第10回研究会
- 日時:2019年6月29日(土)14:00 ~ 17:30
- 場所:桜美林大学・新宿キャンパス J208教室
(地図:https://www.obirin.ac.jp/shinjuku-campus/campus_details.html)
報告者と報告題目
14:00 ~ 15:00
- 報告者 : 保井啓志(東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程、日本学術振興会特別研究員DC1)
- 報告題目:「トランスナショナルな運動としてのLGBT運動とイスラエルの観光」
- 要旨:近年のLGBTの枠組みを用いた性的少数者に関する運動は、まさに国境を超えた運動の典型と言える。本報告では、国境を越えてLGBT運動が展開し、LGBTをはじめとした性的少数者の移動する際に、ジェンダーやセクシュアリティだけでなく、人種や階級といった差異がどのように作用しているかを念頭に、イスラエルの事例について考察する。
15:00 ~ 15:30 質疑応答
15:30 ~ 15:45 コーヒーブレイク
15:45 ~ 16:45
- 報告者 : 幸加木 文(千葉大学大学院社会科学研究院、特任研究員)
- 報告題目:「2010年代のトルコの市民社会の動向― ゲズィ公園抗議運動とクーデタ未遂事件を手がかりに ―」
- 要旨:トルコでは、公正発展党(AKP)政権の下で、宗務庁の政治化や社会のイスラーム化が進行し、社会的分断が深まっている。本報告では、2013年5月末に起きたイスタンブル・ゲズィ公園に端を発する反政 府抗議運動と、2016年7月に起きたクーデタ未遂事件に着目し、その際の主だった世俗的/宗教的市民社会組織の動向とその後の変化を分析することで、2010年代のトルコ政府と市民社会の関係の変容を検討したい。
16:45 ~ 17:30 質疑応答 + 全体討論
18:00 ~ 懇親会(場所は調整中、予算3000円程度)
IG科研「開発とトランスナショナルな社会運動」研究会
代表:鷹木恵子(桜美林大学)
開催報告
IG科研公募研究班「開発とトランスナショナルな社会運動」第10回研究会の報告
日時: 2019年6月29日(土)14:00 ~ 18:00
場所: 桜美林大学新宿キャンパス J208教室
報告題目: 「トランスナショナルな運動としてのLGBT運動とイスラエルの観光」
報告者 : 保井啓志(東京大学大学院、日本学術振興会特別研究員)
イスラエルでは、LGBTの権利擁護の声が1990年代以降盛んになっているが、現在のこの国境を越えた「LGBT」の枠組みは、すでに複数のクィア理論研究者によって指摘されているように、新自由主義の影響を強く受けている。本報告では、イスラエルにおいて、新自由主義的な性的少数者をめぐる運動の商業主義化がみられるだけでなく、イスラエルの、とりわけテル・アヴィヴの新自由主義的発展とテル・アヴィヴへの積極的な誘致の言説、イスラエルの小国性、シオニズムの人口学的要請という点からも、性的少数者、とりわけ男性の同性愛者の観光への着目が積極的に取り入れられてきたことを概観した。
さらに、このイスラエルの性的少数者に対する観光政策・広報のある種の成功は、性的少数者をめぐるグローバルな政治における、西洋中心主義的な側面とイスラエル内部における人種主義、オクシデンタリズム、さらにシオニズムと西洋におけるユダヤ性との関係という、国家的枠組みとの関連性から考察される必要があることを、Joseph MassadやJasbir Puarといった先行研究や、イスラエル国内のいくつかの事例から確認した。
また、参加いただいた皆様からは、イスラエル国内の宗教派との関係性、イスラエルにおけるテル・アヴィヴの例外性、さらに人口政策に関する非常に鋭い指摘・質問をいただいた。これらの指摘を踏まえ考察するに、国内の運動に対する言及とまとめ方が必ずしも報告では丁寧ではないという反省、及び、内部におけるより子細な対立点と複雑性を捨象せず、それをいかに記述してゆくかに関しての課題が浮き彫りになった。それは今後の課題としたい。
報告題目: 「2010年代のトルコの市民社会の動向― ゲズィ公園抗議運動とクーデタ未遂事件を手がかりに ―」
報告者: 幸加木 文(千葉大学千葉大学大学院社会科学研究院、特任研究員)
本報告では、トルコで2013年5月末に起きたイスタンブル・ゲズィ公園に端を発する反政府抗議運動と、2016年7月に起きたクーデタ未遂事件に着目し、その前後のトルコの世俗的/宗教的市民社会組織(CSO)の動向とその変化を分析することで、2010年代のトルコ政治情勢と市民社会の変容を検討した。ゲズィ公園反政府抗議運動では、環境保護団体を始め、様々な背景を持つ市民やCSOが参加し、参加者の間で既存の対立を超えて団結する動きが見られた一方、「国民の意思」は政府側にあると主張する公正発展党(AKP)政権は、国内外の脅威を訴え徹底的な取締りを実施した。政府の市民社会への姿勢を決定づけたこの事件の後、クーデタ未遂事件以降は、非常事態宣言下でAKPと対立するCSOの弾圧がさらに進行し、エルドアン大統領及びAKP政権が様々な反体制派を「テロリスト」と称して敵味方に二分し、社会的分断が深刻化している現状を指摘した。
こうした出来事の後、世俗主義が後退した時代における世俗的CSOは、女性運動を事例に、国家に対する異議申し立ての力が減少したと指摘し得る一方で、親AKPの宗教的CSOは、実権型大統領制となり権力が集中したエルドアン大統領の縁故主義的な庇護の下で活動を活発化させている状況を指摘した。さらに,トルコ社会がさらに宗教(イスラーム)化する一方で、青年層を中心に、宗教や宗教的CSOへの疑念といったネガティブな感情が増し非宗教化(再世俗化)する傾向に、宗務庁等が警戒感を強めている様子について言及した。
質疑応答では,ゲズィ公園抗議運動の主体としてはCSOよりも個人が重要だったのではという指摘や、トルコで「アラブの春」がいかに捉えられ影響を受けているのかという点から、エルドアン・AKPとトルコのCSOの在りようを検討する視座、インドネシアと比較してトルコの権威主義体制が内部から民主化に向かう可能性の検討など、多くの重要な指摘と示唆を受けた。