科研費基盤研究(A):イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究

Online Book Talk/巣ごもり読書会『イスラームのアダム』

Online Book Talk/巣ごもり読書会『イスラームのアダム』

巣ごもり読書会『イスラームのアダム』を開催しました。
以下は文字起こし記録および開催報告です。(右の画像をクリックすると文字起こし記録(PDFファイル)が開きます。)

【開催報告】

日本語報告

 「巣ごもり読書会『イスラームのアダム』」では、昨年刊行された『イスラームのアダム:人間をめぐるイスラーム神秘主義の源流』の作者である澤井真氏と、コメンテーターである長澤栄治氏の報告をもとに、スーフィズムとその教義・神学的解釈におけるジェンダーの側面が議論された。澤井氏の報告では、スーフィズムにおいて、神との合一に至る際にジェンダーの差異がなくなってゆくことが理想とされるが、その際に原初の人間つまり完全人間としてのアダムが重要な参照点となっていることが紹介された。さらに、澤井氏によると、このような民衆の知・実践の知としてのスーフィズムの側面は、イスラーム・フェミニストらによって曲解されつつも高く評価され、こうした思想との共鳴を生み出している。コメントでは、スーフィズムにおいても重要視された「美」の概念、世俗/宗教的の二項対立を含むオリエンタリズムを超えた知の創造というプロジェクトにおけるジェンダーの役割が強調されたほか、会場からはスーフィズムの依然男性中心主義的な側面の評価に関する鋭い質問が出た。
 特に興味深かったのは、美や芸術をめぐる神学的・哲学的な解釈の新たな方向性についても話が及んだことだ。フェミニズム・ジェンダー学では、女性身体の表象や(主に男性からの)眼差しに関する議論の蓄積がある。今回の読書会では蓄積のあるこれらの理論及び議論が必ずしも論じられたわけではないが、フェミニズム・ジェンダー学で行われている議論とイスラーム研究における神学的・哲学的な美と芸術の解釈の両者の架橋の可能性を十分に感じさせるものであった。この領域横断的な議論は、美や芸術といった概念の固定的な解釈を超えて、新たな解釈を可能にする問い直しを生み出すかもしれない。

英語報告

 Presentations by Dr. Makoto Sawai, author of Adam in Islam, and Dr. Eiji Nagasawa, Chairman of the RPIG, formed the basis of an in-depth discussion by RPIG members on the gender dimensions of Sufism from both dogmatic and theological perspectives. In his presentation, Dr. Sawai spoke about Adam as being the primordial human being in Sufism, believed to be the perfect human and, as such, representative of an ideal standard for spiritual development in Sufism. When Sufis advance to the level of attaining unity with God, ideally, they will have reached a state in which gender differences, indeed, gender itself, vanish. Moreover, in Sufism both the study and understanding of the collective theological knowledge of the movement, as well as the tradition of worshipping through direct actions such as dancing, are both highly valued. It is this egalitarian aspect of Sufism, though the religion is not always necessarily correctly interpreted or understood by Islamic feminists, that appeals to and resonates within the movements for gender equality in Islamic regions.
 In his presentation, Dr. Nagasawa commented upon the role of gender and the importance of a critical analysis of the concept of “beauty”, as was highlighted in Edward Said’s initiative to create an alternative perspective, beyond Orientalism. that recognizes and includes the binary of secularism/religion. In the Q & A that followed, one crucially important question which was raised centered around the necessity of critically examining and addressing the androcentric aspects of Sufism.
 Of particular interest to me personally was the enthusiasm engendered by the possibility of new theological and philosophical interpretations of beauty and art resulting from notable new directions, trends and developments. Both Feminism and Gender Studies have rich histories of critical theories, studies and examinations surrounding the representation of women’s bodies and the primarily male gaze. Although these theories and studies were not, necessarily, the focus of the discussion following the presentations, the potential combination of feminism & gender theory with theological and philosophical interpretations of beauty and arts in Islamic studies raised intriguing questions and possibilities. Such intersectional discussions and debates may well foster new critical examinations of the concepts of “beauty” and “art” that go beyond the current conventional and often times rigid understanding of these words.
*報告文作成:保井啓志(東京大学大学院総合文化研究科)

【開催情報】

 今回は『イスラームのアダム——人間をめぐるイスラーム神秘主義の源流』(慶應義塾大学出版会,2021)を題材に、ヒューマニズム/人文学と人間論について考えてみたいと思います。

日時:2021年3月29日(月)20:00~21:00(終了しました)
会場:Zoomを用いたオンライン開催
◆語り手:澤井 真(天理大学)、長沢 栄治(東京外国語大学)

【登壇者紹介】
澤井 真(さわい まこと)
スーフィズム(イスラーム神秘主義)の代表的思想家・イブン・アラビー の思想が、女性に注目することで新たな人間論を構築しており、ジェンダー論にも大きな影響を与えていることを知る。「男/女の解消─スーフィズムの人間観」(『ジェンダー研究』21号、2019年)など。天理大学おやさと研究所講師。
長沢 栄治(ながさわ えいじ)
ヒューマニズム/人文学研究にとって「イスラーム・ジェンダー学」の視角がなぜ重要なのか、「イスラームのアダム」論から勉強したことについて、何かコメントをしてみたいと思います。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所フェロー/東京大学名誉教授。

【今回の課題図書】
澤井真『イスラームのアダムーー人間をめぐるイスラーム神秘主義の源流』(慶應義塾大学出版会,2021)(タイトルをクリックすると出版社のページに移動します)

【主催】
・科研費基盤研究(A) イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究(代表:長沢 栄治)
・グローバル秩序の溶解と新しい危機を超えて:関係性中心の融合型人文社会科学の確立 B01班規範とアイデンティティ(代表:酒井 啓子)
【共催】
日本・アジアに関する教育研究ネットワーク
【問い合わせ先】
イスラーム・ジェンダー学科研事務局 (office@islam-gender.jp)