科研費基盤研究(A):イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究

Online Book Talk/巣ごもり読書会『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』

Online Book Talk/巣ごもり読書会『愛の労働あるいは依存とケアの正義論/LOVE'S LABOR』

巣ごもり読書会『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』を開催しました。
以下は文字起こし記録および開催報告です。(中央の画像をクリックすると文字起こし記録(PDFファイル)が開きます。/書影をクリックすると出版社ページに移動します。)

開催報告

日本語報告

 本読書会ではエヴァ・フェダー・キティ(Eva Feder Kittay)が1999年に出版した『愛の労働あるいは依存とケアの正義論(Love's labor: essays on women, equality, and dependency)』(2010年、白澤社)を取り上げた。自立した個人とその間の対等な関係を前提する議論に対し、キティは依存とケア労働の視座から再考を促した。依存者、依存者をケアする存在(ケア労働者)の不可視化、この関係がジェンダー化されていること、ケア労働者が公領域に出ていけないことを指摘した。そのため公私二元論を脱構築し、依存とケアを包摂した社会の在り方の必要性を訴えた。
 本書の概要説明後、澁谷智子氏による応答が行われた。ヤングケアラーがケア労働者としてさらに弱い立場、困難に見舞われること、労働者とケア労働者の入れ替わりの可能性による持続可能な関係構築の重要性を指摘した。 質疑応答では、ケア労働の賃金、イスラーム圏での性別役割分業、介護や保育といったケア労働の低賃金問題、現在の資本主義体制の中、労働と所得の不均衡、移民のヤングケアラーのより脆弱な立場といった多様なトピックを議論され、非常に活発な議論がなされた。
 一連の議論を通じて明らかになったことは、ケア労働者の多様な立場であろう。日本社会の移民、ヤングケアラー、イスラーム社会のケア労働者といった多様性への議論は、ケア労働者や依存とケアの関係を画一的に捉えるべきでないことを示唆している。議論で取り上げられたように、イスラーム社会でケア労働者であることの「自信」は必ずしもケア労働者が不利な立場にはない可能性ともいえる。もちろん、その選択の少なさという不利はある。そしてヤングケアラーは年齢だけでなく、その社会的属性も重なるとき、より不利な立場になるだろう。一方でこうした人々は地域やそれぞれの集団の連帯による生存戦略を採用する。こうしたケア労働者の主体性が、公的空間の労働者やケア労働者の入れ替わり可能性に寄与するのではないか。

英語報告

  The book talk discussed Eva Feder Kittay's Love's labor: essays on women, equality, and dependency, published in 1999. Kittay urged to reconsider assumptions about independent individuals and equal relationships between them from the perspective of dependency and carers. She pointed out the invisibility of the dependents and the carers who take care of the dependents, this gendered relationship, and the fact that carers cannot go out into the public sphere. For these reasons, she argued the necessity of deconstructing the public/private binary and of creating a society that encompasses dependency and care.
  After an overview of this book, a brief response was given by Ms. Tomoko Shibuya. She pointed out that young carers suffer from even more vulnerable positions and difficulties as carers, and the importance of establishing sustainable relationships through the compatibility between workers and careers.
  During the Q&A session, various topics were discussed such as wages for care work, gender role division of labor in the Islamic world, low wage problems in care work such as nursing and childcare, the disparity between labor and income in the current capitalist system, and the more vulnerable position of immigrant young carers.
  Through whole discussions, it has become clear that care workers are in a diverse status. The discussions on diversity, such as immigrants in Japanese society, young carers, and carers in Islamic society, suggest that the relationship between dependency and care should not be considered homogenous. As discussed, the " self-confidence" of being carers in an Islamic society may show that carers are not always at a disadvantage. There is, of course, the disadvantage of their lack of choice. Young carers will be at a further disadvantage when their age and their social status are combined. On the other hand, these people tend to adopt survival strategies based on solidarity with the local community and their groups. This agency of carers may contribute to the compatibility of workers and carers.
*報告文作成:澤口右樹(東京大学大学院総合文化研究科)

開催情報

 今回はエヴァ・フェダー・キティ『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』(2010年、白澤社)を題材に、ケア労働を考えます。キティはアメリカのフェミニスト哲学者です。本書は、ケア労働を社会的にどう位置づけるかを、重度の身体・知的障碍を持つ子供を育てた経験に基づいて理論的に追求し、その後のケア労働をめぐる議論に大きな影響を与えました。ケア労働はジェンダー化されていると同時に、文化にも強い影響を受けます。日本、エジプト、在日ムスリムのケア労働を紹介し、その共通点と差異を考えます。
 語り手は日本のヤングケアラーのご研究をなさっている澁谷智子氏と、嶺崎寛子氏です。

日時:2021年3月12日(金)13:30~14:30(終了しました)
会場:Zoomを用いたオンライン開催

◆語り手:澁谷 智子(成蹊大学)、嶺崎 寛子(成蹊大学)

【登壇者紹介】
澁谷 智子(しぶや ともこ)
成蹊大学文学部教授。専門は社会学。著書に『ヤングケアラー 介護を担う子ども・若者の現実』(中公新書)、『コーダの世界――手話の文化と声の文化』(医学書院)など。(ご参考:https://www.chuko.co.jp/shinsho/portal/110036.html
◆嶺崎 寛子(みねさき ひろこ)
成蹊大学文学部准教授。専門は文化人類学、ジェンダー学。著書に『イスラーム復興とジェンダー』(昭和堂)、『ジェンダー暴力の文化人類学』(昭和堂、田中雅一氏との共編著)など。

今回の課題図書
エヴァ・フェダー・キティ『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』(風響社、2020年)(タイトルをクリックすると出版社のページに移動します)

◇主催
・科研費基盤研究(A) イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究(代表:長沢 栄治)
・グローバル秩序の溶解と新しい危機を超えて:関係性中心の融合型人文社会科学の確立 B01班規範とアイデンティティ(代表:酒井 啓子)
◇共催
日本・アジアに関する教育研究ネットワーク
◇問い合わせ先
イスラーム・ジェンダー学科研事務局 (office@islam-gender.jp)